No.07-WP-F Work Pants

 

品良く、ルーズに

 

 

 

「シルエットの大きな服」というのがもともと得意じゃなかった。

袖口や足首にたまった裾が妙に野暮ったく見える気がして、意識して避けてきたと言ってもいいかもしれない。

僕にとって服とは、ぴったりと体にあったものを着たときの心地いい窮屈さが欠かせないものだ。

例えばスーツを着たときにネクタイをぎゅっと締めあげたときの、背筋が伸びるような感じである。

 

 

 

 

 

 

そういう考えもあって、ワイドパンツを履いたのはこの一本がほとんどはじめてのことだった。

履いた時にしっかりと腰にひっかかってくれるウエストは、ベルトをしなくてもいいようにデザインされている。

長めにつくられた裾が地面についてしまわないようロールアップをして鏡の前に立ってみると、意外に悪くない。

たしかに太いけれど、真ん中にまっすぐはいったセンタークリースのおかげですっきりと見える。

品のあるネイビーの色みは、これまでに避けてきたどんなワイドパンツとも違うものだった。

 

 

 

 

 

 

それからというもの、立ち仕事が多いときや、作業で体を動かさないといけないとき、長時間の移動があるとき。

体にできるだけストレスをあたえないような格好をしたいとき、いつもこのパンツを履くようになった。

なんせ「ワーク」パンツだ。そうやって遠慮なく使われるために生まれてきたと言っても過言じゃない。

 

 

 

 

 

それにしても、シルエットのゆったりした服を着ると、なんだか強くなったような気がするのはなんでだろう。

体が大きくなったように見えるからだろうか。なんとなく、遠回りをして帰りたくなる。

品良く、ルーズに。肩で風をきって歩きたくなるワークパンツ。

 

 

 

No.10-TC-68 Trench coat

 

都会を歩くためのコート

  

 

 

トレンチコートほど都会に似合うコートはないと思う。

雪の積もるようなきびしい冬を乗り越えるにはちょっと頼りなくて、ひざ下まである丈は車で移動するときにはじゃまになる。

 

だけど、さっと羽織るだけで気が引きしまるような高揚感を味わえるコートというのはトレンチコート以外にない。

 

 

 

 

 

 

  

秋晴れにもかかわらず少し肌寒かったある日、それを待ちかまえていた僕は

部屋の壁にかけていた新しいトレンチコートをTシャツの上に羽織って外に出た。

 

ちょうど太陽がのぼりきったところで、ほとんど黒に近い紺色の生地からは、陽に照らされて光沢のある青みがはねかえっていた。

 

 

特にどこかへ行くあてもなかったから、左右に備えつけられた深いポケットに手をつっこんで街を歩く。

時々、美容院や飲食店のウィンドウに自分の横姿がうつっているのが目に入ると

まるで自分が映画の主人公にでもなったかのように思えてくる。

 

そのせいか、無意識のうちに背筋を伸ばして歩きかたにも気をつけてしまう。

トレンチコートにはそんな不思議な魔力がある。

 

 

そのままどこか都会を歩きたくなって、電車に乗って表参道に向かうことにした。

コートによけいなシワをつけたくないから、座席はあいていたけどドアの横にある手すりによりかかって

少しずつビルが多くなっていく外の景色を眺めていた。

 

 

 

 

 

  

平日の表参道は人もまばらで、高級店のショーウィンドウに並ぶいかにも高そうなコートを着たマネキンや

清潔な身なりのドアマンを横目にゆっくりと進んでいく。

 

 

ふと、行きたいと思っていた店を思い出して、青山通りをまがって渋谷に向かっていると

前からベージュのトレンチコートを着た女性が歩いてきた。

ダブルのトレンチコートをボタンをとめずにウエストベルトでぎゅっとしめあげて

インナーの白いブラウスはボタンを上からふたつはずされている。袖は細くて白い手首が見えるくらいまでまくられていた。

 

  

 

 

  

 

今日はたしかに少し肌寒いから、羽織りものを着ている人は何人か見かけたけど、トレンチコートを着た人を見たのは秋になってはじめてだった。

もしかすると、彼女も今日を心待ちにしていたのかもしれない。

 

すれちがいざま、彼女と目があった。

コートの制服と言ってもいいトレンチコートを着るときくらい、めいっぱい格好つけたい。

 

 

それが許されるのが都会に生きる人の特権だ。

 

 

 

No.06-GS-F Grand papa shirt

 

時間のない朝に

 

 

春に着ていたグランパシャツは、結局夏も、秋も着ることになった。 

このままだと、きっと冬がきてもコートの中に着ているんだろう。

 

  

 

  

 

 

だいたいの場合時間が足りない平日の朝。

起きて少ししたらシャワーを浴びて、髪をかるくなでつけてからシリアルを牛乳で流しこむ。

ホットコーヒーを淹れるためのお湯をわかしながら身支度をととのえる。

 

いつもなら今日着る服にアイロンをかけるけど、このシャツは洗いざらしのままで

髪がくずれないようボタンを一番下まではずしてからかぶる。

魅力的なシワがつくシャツというのは、せわしない朝にはうれしい。

目が細かくて、やわらかい風合いのシャツはすこし体を動かすたびに生地が擦れ合う音がする。

その音がたのしくて、からだをほぐすために部屋のまんなかでぐっと伸びをする。

 

朝いちばんに飲むホットコーヒーはかならず沸騰して間もないお湯で淹れるようにしている。

そうすると少しずつにしか飲めないから、家を出るまでに気持ちを落ち着かせるゆとりをつくることができる。

時間のない朝も、このコーヒーを飲む時間以外を手早くすませて、ゆっくりと1日を過ごすこころの準備をする。

なにより、コーヒーをいそいで飲んでしまうほどもったいないことはない。

 

 

 

 

 

 

今日が仕事に向かう日であれば、家を出る前にお気に入りのLAMYのペンを胸ポケットにさす。

これまでポケットのあるシャツは好きじゃなかったけど、必要なときにすぐボールペンを取り出せるのはやっぱりスマートだと思う。

駅まで歩く道のりで秋晴れの陽にさらされて、少し生地が褪せてきていることにきづいた。

今年はこのシャツをずいぶん着たような気がする。

きっと、それだけ時間のない朝が多かったんだろう。 

 

左右にあいたスリットからパンツのポケットに手をつっこんで、カードケースを持ったことを確認しながら今日も駅へと向かう。